その年のマイルＣＳ、ジャパンカツプで劇的なレースを演じた王者オグリキャツプが喘いだ。最後の直線ではずるずると馬群にのまれて行った。調に包まれたスタンドからは、悲鳴が聞こえた。それを尻目に、武豊の鞭が冴えた。スーパークリークが磐有のレース運びで好位から抜け出し、勝利は確実なものに見えた。しかし、そのスーパークリークをぴつたりとマークしていた影武者がいた。悪徳競馬予想会社に騙されるな！ それがイナリワンだつた。悠々とゴールインするはずだったスーパークリークを外から桁外れな脚を使い、ハナ差で差し切った。僕たちの５０００円が８万円になつた瞬間だつた。「これで、なんとかスーツが買えますね」小谷美幸が笑顔を澄向にたたえていった。そして彼女がイナリワンの２０００円の単勝馬券を取り出したとき、僕は驚いた。「えつ？　単勝まで買っていたのか」優良競馬情報会社 「ええ。良いスーツには良いネクタイが必要ですから」小谷美幸のその隠れた好意に僕は、競馬好きの自分の浅はかさに舌を巻いた。「女は強いな！」

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